ドイツの首都ベルリンには多くの墓地があります。その多くは壁に囲まれた場所に多くの木々が植えられています。そのため自然豊かな公園として墓地を散歩の場所として訪れる人は珍しくありません。
今回紹介したいのは、そんなベルリンにある自然豊かなユダヤ人墓地です。ただし、こちらの墓地は自然豊かなだけでなく歴史的な出来事を感じさせ、様々なことを考えさせられる場所となっています。
ベルリン東部に広がる広大な墓地
今回紹介するのはヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地です。墓地が位置するのはベルリン中心部から少し離れた郊外の住宅地。ヴァイセンゼーというのはヴァイセン湖のことで、近くにはヴァイセン湖など幾つかの湖があります。
このような郊外に広がる墓地ですが、非常に広大で42ヘクタールもあり、東京ドームに例えると、およそ9個分の大きさになります。その広さはヨーロッパで2番目に広いユダヤ人墓地という点からもわかるでしょう。
11万人以上の人が眠るヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地
19世期にはベルリン市内に幾つかのユダヤ人墓地がありました。しかし19世紀末には新しいユダヤ人墓地が必要となります。なぜなら市内にある小規模な墓地では収容能力に限界があったからです。そこでベルリン郊外に開かれたのが、広大な敷地を持つヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地でした。
このようにしてヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地が利用され始めたのは1880年のこと。訪れるとわかるのですが、こちらの墓地には非常に多くの墓石があり、今では11万人以上もの人々が眠っているのです。
墓地の入り口にあるホロコーストの慰霊碑
ユダヤ人の歴史を感じさせるものは幾つかあるのですが、それは墓地の入り口で見ることになります。墓地の入り口部分にあるのは一つの墓石。そこにはナチス統治期に殺害されたユダヤ人を慰霊する文章が書かれています。
非常に広大な墓地であることから、ここでは道に迷ったり、重要な場所を見逃すことがあるでしょう。ですが、ホロコーストの慰霊碑は入り口にあるため、墓地を訪れる人は誰もが見ることになります。こうしたことからホローコーストの慰霊碑が持つ意味を理解できるかもしれません。
他とは異なる特別な墓地
墓地は幾つかの区画に分けられ、墓地を通り抜ける道には並木が植えられています。そして並木道の横には墓石が立てられています。各区画には所狭しと墓石が並んでいるため、11万人以上が眠る場所であることにも納得させられるでしょう。
また墓石の上にはヘブライ語が書かれています。こうした墓石の密度の濃さや、ヘブライ語の墓銘は他の墓地では見られないため、この墓地に他とは異なることを気付かせてくれるでしょう。
自然に埋もれる墓石
墓地を歩くうちに気が付いたことがありました。ベルリンの他の墓地では、木々が植えられており、墓地は公園のようになっています。しかし、こちらのユダヤ人墓地では、成長した木々が墓石をなぎ倒しているところもあります。
また墓石には多くの蔦が絡み、墓銘は覆い隠されています。それだけでなく、墓地の多くは緑に埋もれて、自然に還っているような印象を感じられたのでした。公園というよりも、むしろ森になっているのです。
歴史が生み出した荒廃
このような墓地の荒廃には理由があります。なぜなら、観光や見学を除いて、墓地をお参りする人はあまりいないのです。1933年から1945年のナチスの統治期に多くのユダヤ人が収容所に送られて命を落としています。
また一部のユダヤ人は迫害を恐れて他国へと逃れて行きました。そのため、多くの墓石は無縁仏のように、花を手向けられることもなく、蔦に覆われ、伸び盛る木々に押し倒され、自然に還っているのです。
消滅したユダヤ人コミュニティー
こちらにある墓石の数からわかるように、かつてベルリンには多くのユダヤ人が住んでいました。資料によれば、1933年には16万人ものユダヤ人が住んでいたそうです。それは当時の市の総人口の4パーセントを占めていました。
しかし第二次世界大戦が終了した際にベルリンに住んでいたユダヤ人は僅か8000人だったのです。それはホローコーストによって多くのユダヤ人が命を落としたこと、またこの街を去っていったことを表しています。ここにある多くの傷んだ墓石は、ベルリンのユダヤ人コミュニティーの消滅を表してもいるのです。
ホロコーストがもたらしたものを気付かせる墓地
ベルリンには多くの墓地があり、そこは自然を感じられ、散歩も楽しめる場所です。ヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地は森のように木々が生茂る、自然を身近に感じられる場所になっています。ですが、ここでは単に自然を感じるだけでなく、ユダヤ人に降りかかった出来事を強く感じさせる場所でもあります。
もしベルリンを訪れた際に、もっとユダヤ人の文化やその歴史を理解したいと思うのであれば、ぜひこちらの墓地を訪れてみてください。きっと様々なことを感じられると思います。
ホロコースト については、ベルリンにあるベルリン・ユダヤ博物館で体験的に知ることができます。そんなベルリン・ユダヤ博物館については、こちらの記事で紹介しています。
ヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地 / Jüdischer Friedhof Berlin-Weissensee
アドレス: Herbert-Baum-Str. 45, 13088 Berlin
開館時間 : ( 4/1 – 9/30) 7:30 – 17:00 / 月〜木、7:30 – 14:30 / 金、8:00 – 17:00 / 日
(10/1 – 3/31) 7:30 – 16:00 / 月〜木、7:30 – 14:30 金、8:00 – 16:00 / 日
休園日 : 土曜、ユダヤの祝日
Web-site : ヴァイセンゼー・ユダヤ人墓地