今も街の中心部に残るベルリンの壁
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ベルリンの壁崩壊から35年。現在の壁の様子をレポート

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ベルリンの壁はドイツの首都であるベルリンに築かれ、一つの街を30年近くにわたって分断していました。そんなベルリンの壁は1989年に崩れて、分断された街は以前のように一つの街に戻っています。壁の崩壊から30年以上もの月日が流れ、今ではベルリンの街も大きく変化しています。

それではベルリンの壁があった場所には今でも壁は残されているのでしょうか。そして壁があった場所はどのようになっているのでしょうか。こちらの記事では、現在のベルリンの壁についてや、壁跡地の状況について紹介したいと思います。

ベルリンの壁がどこに築かれたのか、そしてその跡地に整備されたサイクリングロードについて、こちらの記事で紹介します。

ベルリンの壁崩壊以降の現在の壁の様子

ベルリンの壁は、ベルリンの街を東西に分断していました。街の中心部では、壁が築かれることで、通り挟んで西側と東側に分断されていたところもありました。このように街を分断していた壁ですが、東西ドイツ再統一後には無用な長物と化しています。

統一後に街の再開発は進められ、ベルリンの壁はあっという間に姿を消していきました。今では実物の壁が残されている場所は僅かしかありません。そのため歴史を伝えるために保全された場所以外では見ることはできないのです。

当時のままベルリンの壁を残した場所

ほとんどが姿を消したベルリンの壁ですが、今でも当時の姿を残している場所があります。それは街の中心部にあるベルリンの壁記念館(ベルリンの壁博物館)です。こちらでは1.4キロメートルにわたって壁が築かれていた場所を整備しており、歴史を伝える場所となっています。そのうちの一部は当時の壁や周辺施設をそのままに再現しています。

ベルリンの壁博物館
ベルリンの壁記念館

その最大の特徴となるのはベルリンの壁に近付けないように築かれた第二の壁の存在です。壁と壁の間には無人地帯が設けられて、侵入できないようになっていたのです。こうした第二の壁が残されているのは、ベルリンの壁記念館のみです。ここでは東西ドイツ時代にどのように壁が街を分断していたかがわかるでしょう。

ベルリンの壁博物館
手前の壁が「ベルリンの壁」。奥の低い壁が「第二の壁」。二つの壁の間に無人地帯が作られ、画面の中心の監視塔から逃亡者を監視していた。

ベルリンの壁記念館(ベルリンの壁博物館)については、こちらの記事で紹介しています。

ベルリンの壁を残している場所

ベルリンの壁を当時のまま残している場所は、ベルリンの壁記念館のみしかありません。ですがベルリンの壁がまとまって残されている場所は他に2ヶ所あります。それはイーストサイドギャラリーと、テロのトポグラフィーです。

テロのトポグラフィーはゲシュタポ(秘密警察)の本部のあった場所で、現在は第二次世界大戦時の蛮行を伝える場所として展示施設となっています。そんな場所は東西の境界近くにあるため壁が築かれおり、今では壁が100メートル近くにわたって残されているのです。このようにナチスや東西ドイツなどドイツの歴史を強く感じられる場所となっています。

テロのトポグラフィー

イーストサイドギャラリーは、1キロ以上にわたってベルリンの壁が残されている場所です。他の場所と異なるのは、壁に様々な壁画が描かれていることです。世界20か国以上から、多くのアーティストが集まり、様々な壁画が描いたのです。

その中でも特に有名なのは、東西ドイツ時代の東ドイツとソヴィエトの首脳を描いたもので、それは挨拶として二人の政治家がキスをしているものです。今ではベルリンでも特に人気のスポットとなっており、多くの人が訪れる場所となっています。

イーストサイドギャラリー
イーストサイドギャラリーにある東ドイツ・ソヴィエト首脳のキスを描いた壁画

イーストサイドギャラリーについては、こちらの記事で紹介しています。

ベルリンの壁があった場所と気付かせる印

壁はそのほとんどが撤去されており、街も再開発でその姿を変えています。そのため壁があった場所に気付くのは簡単ではありません。しかし、そんな壁の位置に気付かせてくれるものがあります。それは壁のあった場所に残された印です。街の中心部にあった壁の跡には、タイルのようなものが埋め込まれており、それは通りの上に延々と線を描いているのです。壁が無くなった今でも壁のあった位置を示し、街をどのように切り裂いていたかを気付かせてくれるのです。

ベルリンの壁跡を示す印
ベルリンの壁跡に残された印。壁付近には延々と印が伸びている。

再開発が気付かせる東西ベルリンの境界

市内中心部で、ベルリンの壁跡を探していると不思議な光景を見つけることがあります。それはベルリンの壁跡に沿って再開発され、現代的な建築が建ち並んでいることです。多くの人は、旧西側に現代的な建物が建てられ、旧東側には古い街並みが広がっていると思うでしょう。ですが、それは逆なのです。

ベルリンの壁跡地に建つ住宅
左側は旧東側で最近に建てられた真新しい集合住宅。右側は旧西側に建つ古くからの住宅。

旧東側ではベルリンの壁に近付けないように第2の壁が築かれていました。そして壁と壁の間は建物や木々を取り払われて、逃亡者を発見しやすくするための無人地帯が作られていたのです。そんな無人地帯はベルリンの壁崩壊後に中心部に現れた空き地となったのです。そのため再開発が行われ、壁に沿って真新しい建物が建ち並んでいるのです。このように、再開発された場所と、そのままの場所がコントラストとなり、ベルリンの壁の位置を気付かせてくれるのです。

開発が進むベルリンの壁跡地
イーストサイド・ギャラリー付近の風景。ベルリンの壁と建設が進む旧東側に建つビル群。

郊外に残るベルリンの壁の跡、無人地帯

ベルリンの壁は、ベルリンの西側を囲む形で築かれていました。そのため郊外の森の中などにも築かれていました。そんな森の中にあった壁ですが、壁に近付かせないための第2の壁が築かれており、壁と壁の間は木々が伐採されて、逃亡者を発見しやすくするための無人地帯が作られていたのです。こうして森の中では、壁に沿って木々の無い空間が延々と延びていたのです。

そんな無人地帯の跡ですが、今でも簡単に見つけることができます。場所によっては植林されており、かつての無人地帯には規則的に植えられた若い木々が枝葉を伸ばしているのです。そのため不規則に木々が生い茂る自然の森とのコントラストを見つけることができるでしょう。

ベルリンの跡地に植えられた木々
左側は旧西側で自然の森が広がる。右側は旧東側の無人地帯の跡に植林された木々。

一方、全ての壁跡地の無人地帯に木々が植えられたわけではありません。場所によっては植林されないままの場所もあるのです。そのような場所は再び木々が生えることはなく、砂地に覆われることもあるのです。こうして一部の壁跡地は砂地となっており、それはベルリンの壁があった印となっているのです。 

ベルリンの壁跡地に生まれた砂地。
郊外にあるベルリンの壁と無人地帯跡に広がる砂地。

壁によって分断された鉄道の路線

ベルリンの壁は東ドイツから西ドイツへの逃亡を防ぐために築かれたものです。そのため人々の往来を絶つことになったのですが、それによって多くの鉄道路線も分断されたのです。その多くはベルリンの壁崩壊後に再接続されますが、利便性のために休止や廃止された場所もあるのです。そうした路線に中には今でも線路を残したままの場所があります。そんな廃線の一つが墓地線(Friedhofsbahn)と呼ばれる路線です。

ベルリンの壁によって断ち切られた路線
旧西側に残る線路。列車が走らなくなって60年以上になるが、線路は失われることなく残されている。

墓地線はベルリン郊外の住宅街と郊外に広がる広大な墓地を繋ぐ路線でした。このような路線ですが、東西ドイツ分裂時に、郊外の街は西側に、そして墓地は東側に分断されてしまったのです。ベルリンの壁が築かれると、路線に列車が走ることはできなくなり、東側にあった線路は撤去されます。しかし西側では撤去されることなく放置されたのです。現在でも旧西側に線路が残されており、壁周辺で途絶えた線路が、ベルリンの壁が周辺にあったことを気付かせてくれるのです。

ベルリンの壁によって廃線となった路線
ベルリンの壁付近で途切れる線路。この先にはベルリンの壁が築かれていた。

墓地線以外にも、ベルリンの壁によって分断された路線があります。そちらについては、こちらの記事で紹介しています。

桜並木に生まれ変わったベルリンの壁跡地

ベルリンの壁は姿を消していますが、その存在を美しく感じさせてくれる場所があります。それはベルリンと隣接する町テルトウの間にある桜並木です。こちらにある桜はベルリンの壁があった場所に植えられており、春になれば壁があった場所にピンクの花の壁が現れるのです。

ベルリンの壁跡地に植えられた桜
毎年桜の季節になると、多くの人が訪れて桜並木を楽しむ。

このような桜並木には、驚くべきことに日本が関連しているのです。なぜなら日本のテレビ局が桜をベルリンの壁に植えるキャンペーンを行い、多くの募金を集めたのです。集められたお金を元に、ベルリンの壁があった場所におよそ1万本もの桜が植えられたのです。そしてベルリンとその隣町テルトウの間にある境界には、1000本もの桜が美しい桜並木を作り出しているのです。

ベルリンの壁跡地に植えられた桜
多くの人で賑わうベルリンの壁跡の桜並木

ベルリンの壁跡に植えられた桜については、こちらの記事で紹介しています。

郊外に残るベルリンの壁が生み出した特別な風景

郊外でベルリンの壁があった場所を訪れると、不思議な風景を見つけることができるでしょう。なぜなら農地近くに高層ビル群が建っているからです。そして農地とビル群という不思議なコントラストを生み出しているのです。実はこの風景にはベルリンの壁が大きな影響を与えています。ベルリンの街は東西に分断されたときに、郊外のベルリンの壁近くに大規模な住宅地が開発されたのです。

グロピウスシュタット
グロピウスシュタットに建つ集合住宅のビルの一つ。

そんな都市計画の一つがグロピウスシュタットです。これは20世紀前半に機能主義のデザインを提唱したヴォルター・グロピウスによって計画された住宅地です。当時ベルリンの西側では住宅地が不足していたことから、ベルリンの壁ギリギリまで開発されることになりました。そして多くの人が住めるように高層住宅が建てられたのです。

グロピウスシュタット
手前の農地や草地は旧東側。高層ビル群の手前の林はベルリンの壁や無人地帯の跡。奥のビル群は旧西側。

一方、宅地不足は起きなかった東側では壁付近は開発されることはありませんでした。壁が消えた今でも、その風景は変わることはありません。壁跡地を境にして住宅地と農地が広がっているため、簡単に壁があった場所を見つけることができるのです。

ベルリンの壁に沿って開発されたグロピウスシュタット
ビル群と草地などの自然が、不思議なコントラストを生み出す。

今に残る東西ベルリンの分断の名残

1989年にベルリンの壁が崩壊し、30年以上の月日が流れました。街からベルリンの壁は姿を消して、ごく一部の場所でしか壁を見ることはできません。そのため壁そのものを見ることはほとんどないでしょう。

ですが、市内ではベルリンの壁には印が付けられて、そこから壁のあった場所を見つけることができます。またそうした印の無い郊外の場所でも、桜並木、新しく植林された木々、そして東西ベルリンの開発状況によって、ベルリンの壁の痕跡を感じることができるです。このように目に見える形で、今もなおドイツが東西に分断された歴史を感じることができるのです。

ベルリンの西側を囲むように築かれたベルリンの壁は、今ではほとんど残されていません。そんなベルリンの壁の実物を見れる場所、そしてベルリンの壁の痕跡を感じられる、お勧めの場所を紹介しています。

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